厚藤四郎(あつとうしろう)

  • 指定:国宝
  • 短刀 銘 吉光 (名物:厚藤四郎)
  • 東京国立博物館蔵
  • 長さ 7寸2分(21.82cm)
  • 反り 内反り

 

 

厚藤四郎は粟田口吉光の作で、「享保名物帳」に所載する短刀である。もと室町将軍家の御物で、9代:足利義尚は長享元年(1487)9月、江州へ出陣のときこれを帯びた。室町幕府滅亡後、堺の豪商が所持していたものを、本阿弥光徳の従兄弟にあたる祐徳が百貫で入手して、濃州浄見城主:一柳伊豆守直末へ譲った。直末は天正18年(1590)3月29日、小田原征伐で戦死した。その遺物としてであろう、同じく小田原陣中にあった豊前中津の前城主:黒田如水(孝高)へ贈った。それを関白:豊臣秀次に献上したところ、秀次が高野山で自尽のさい、寵臣の岡三十郎が拝領して、これで切腹した。越中則重で切腹したとの説は採らない。厚藤四郎は豊臣秀吉が没収したとみえ、秀吉の遺物として、毛利甲斐守秀元が拝領した。
秀吉が文禄元年(1592)、肥前名護屋より帰洛の途中、柳浦で難破しようとした時、秀元が助けた褒美として、これを与えた、との説は誤りである。秀元は慶長19年(1614)11月、埋忠家に命じて拵えを作らせた。埋忠銘鑑に「毛甲州殿ニ有之 慶長十七年十一月拵仕候」とある。秀元の嫡孫:右京亮綱元のとき、将軍:徳川家綱の所望により、寛文4年(1664)2月28日献上したところ同3月5日黄金千枚を下賜された。二万両下賜説は誤りである。寛文(1661)の初め、五百枚の折紙がついた。このことは、明治2年改めの将軍家「御腰物台帳」に記載されているが、その後、一ツ橋家に移っていたものを、昭和の初め、東京帝室博物館で買上げ、戦後、国宝に指定された。

名物帳には「御物 厚(藤四郎) 銘有 長さ七寸弐分 金五百枚代付
厚さ四分。昔室町殿の御物也。其後摂泉之町人所持、本阿弥祐徳百貫に求(め)、一柳伊豆守に遣(す)、又夫より黒田如水老へ被遣。秀次公へ上る。(秀吉公へ上り)毛利甲斐守殿拝領、嫡孫甲斐守殿より家綱公に上り金千枚被下、寛文之初(め)光徳代付也(一本に光温代付)。」

刃長7寸2分(約21.8cm)、元幅6分5厘(約1.9cm)の小振りながら、重ねが4分(約1.2cm)もあるので、「厚藤四郎」の異名が付せられた。平造で、地鉄は小板目、刃文は直刃に乱れまじり、ただし、裏には焼き落としがある。「吉光」と二字銘がある。
「厚藤四郎」の読み方については「あつとうしろう」「あつしとうしろう」の両様があるという。埋忠押型には仮名で「安(あ)徒(つ)藤四郎」となっている。

鎧通し(よろいとおし)とは、馬手差し(めてざし)とも称し、鎧武者が右腰にさす腰刀のことで、右手は馬の綱をもつので、馬手差しという。右手差しとも書くが、妻手指しと書くのは宛字で、弓を引く場合、右手で矢をつかむため、矢手(めて)差しとも書く。組み討ちのとき、鎧の隙間から刺すので鎧通し・鎧徹し・刺刀とも、これで首をかくので首掻きの腰刀・首掻き刀・首取りの脇差・解首刀ともいう。なお、刃長が9寸5分(約28.8cm)ぐらいあるので九寸五分ともいう。川柳に「大石の魂たった九寸五分」とあるのは、普通の短刀の意味である。
鎧通しは右手で逆手に持って、敵に刺すので、刃長は肘の長さを限度とするので、9寸5分(約28.8cm)以下の長さになる。鎧の隙間から刺して揉み合うので、身幅を狭く、重ねを厚く、三角形に近い姿となる。城攻めで石垣の間にさし込み、それを利用して、よじ登ることもある。土佐吉光(室町時代後期の土佐国(高知県)の刀工、藤四郎吉光とは別人)の短刀が、、馬手差しの典型である。
拵は合い口となるので、鐔を欠く。特徴は右腰にさすため、栗形や返り角は外側、つまり普通の脇差でいえば、差し裏につく。そして返り角の頭が、普通とは反対に鐺のほうを向いている。それは下げ緒を返り角にからめて、組み討ち中、右の片手で抜いても、鞘ごと脱けて来ないようにするためである。なお、鐺に犬招きをつけ、下げ緒をそれに通し、鞘にからめる方法のほか、返り角を略し、鐺を銀ばりで三角形にし、棟のほうに鎬を立てる方法もあった。腰にさす場合、柄を前、鐺を後にするが普通であるが、それでは敵を組みしいている時、刀身が自然に抜け出す恐れや、敵が逆にこちらの柄を握り、刀を抜く恐れがあるので、古くは柄を後に、鐺を前になるように指していた。集古十種に所載する細川澄元(1489-1520)の画像では、そうなっている。
鎧通しの起源については定かではないが、室町時代中期(応仁・文明頃)に流行をみて室町時代後期に及ぶ。年代的に備前長船の刀工でいえば、忠光・勝光・宗光らの作品より鎧通しが多く経眼される。

(参考文献:日本刀大百科事典より転載・引用・抜粋)

(法量)
長さ 7寸2分(21.82cm)
反り 内反り
元幅 6分2厘(1.88cm)
元重ね 3分6厘(1.09cm)
茎長さ 3寸5分(10.67cm)