南泉一文字(なんせんいちもんじ)

  • 指定:重要文化財
  • 刀 無銘 一文字 (名物:南泉一文字)
  • 徳川美術館蔵
  • 長さ 2尺0寸3分(61.5cm)
  • 反り 6分(2.0cm)

 

 

南泉一文字は備前一文字作の刀で「享保名物帳」に所載する。もと足利将軍家の蔵刀で、研ぎに出してあった時、壁に立てかけてあるのに、猫が飛びかかり、真二つになったので「南泉」という異名がつけられた。唐代の禅僧:南泉善願が経山寺にいた時のこと、東西両堂の小僧たちが、猫の子を取りっこしていた。南泉がその猫の子をつまみあげ、この意味が解らねば切るぞ、と言ったが、誰も解し得なかったので、猫の子を切ってしまった、という故事に因んで、南泉と名付けたものである。
豊臣秀吉が入手し、大坂城の一之刀箱に入れてあった。本阿弥光徳は押形を採り、「ないせん」と注記している。秀頼が慶長16年(1611)3月28日、京都の二条城において徳川家康と会見のさい、家康は左文字の刀(大左文字)と鍋藤四郎の脇指(鍋通し正宗とも)を贈り、秀頼は南泉一文字の刀と左文字の脇指を家康に贈った。左文字の脇指は大坂城の三之箱に納められていたしゆ楽(聚楽)よりと但し書きがあるもので太閤左文字(国宝)。家康は南泉一文字の刀を尾州の徳川義直へ与えた。のち二代将軍:秀忠に献上したが、秀忠はまた再び義直へ贈ったので尾張家に戻った。義直が平岩弥五助という者に南泉一文字の刀を試し切りさせたところ、あまりに切れすぎてしまい、地面にまで切れ通ったので、弥五助は即座に刀が折れたのでないかと早合点してしまい、「折れました」、と叫んだほどだったという。尾州家の二代:光友、三代:綱致、十六代:義宣らは、これを差料にしていた。八代:宗睦は家臣に命じて、「南泉一文字記」という今日までに至る由来書を書かせた。延享3年(1746)、城下の研師:竹屋九右衛門に南泉一文字の刀を研がせた。その後は継ぎ研ぎだけで、今日に至っている。
梨子地刻小サ刀拵・蠟色金霞小サ刀拵、金襴包刀拵の3つが付属している。

「名物帳」には、「尾張殿 南泉(一文字) 磨上 長さ弐尺参分 無代
昔此刀にて猫を切たる事有之。依(て)名付(く)。経山寺に南泉と云僧有。一日東西両堂猫児をあらそう。南泉猫児をひつさげ立て両堂の僧に向て此心さとりたらば切(ら)んとなり。僧等無答、故(に)南泉猫児を切て二つにせられたり、碧巌伝燈録に記す。秀頼公の御物なり。慶弔1十六(年)三月廿八日二条之御城へ渡御の節 家康公へ被進、尾張殿へ御伝へ、秀忠公へ上る、又拝領。」
「南泉一文字記」には、「室町家、軍府ニ在ルノ日、工ニ命ジテ之ヲ礪ガシム。壁ニ挂クルノ際、一猫児有リ。跳ッテ刃ニ触レ、断タレテ両段トナル。驚異シテ以テ神物ト為シ、乃チ南泉ト号ス。蓋シ之ヲ普願禅師、猫ヲ斬ルノ話ニ取ルカ」

尾張徳川家における記録では
・豊臣家御腰物帳 御太刀御腰物御脇指太閤様御代より有之分帳 一之箱
一 なんせん刀 慶長十六年三月廿八日 大御所様へ被進
・駿府御分物刀剣元帳 上々御腰物帳(元和4年) 上之御腰物
一 なんせん 一文字 秀頼より
・御腰物御脇指帳(慶安4年)
一 同断(御指料) 南泉一文字御少刀拵 和に作鞘志ととめ斗(略)
・御腰物元帳(文政頃)
一 名物 南泉一文字御脇指 無銘 長弐尺三寸半
・鞘書
「仁壱ノ六十五(仁1-65)」 名物南泉一文字御脇指 無銘 長弐尺三寸分半

「豊臣家御腰物帳」の「御太刀御腰物御脇指 太閤様御時ヨリ有之分之帳」(慶長6年)
一之箱 一 なんせん刀 慶長十六年三月廿八日 大御所様え被進之
「御太刀御腰物御脇指方々え被遣之帳 慶長五年ヨリ同拾八年十二月迄」(慶長18年)
一之箱内 一 なんせん 一文字御刀 慶長十六年三月 大御所様え被進之

「豊臣家御腰物帳」の「御太刀御腰物御脇指 太閤様御時ヨリ有之分之帳」(慶長6年)
三之箱 一 左文字 しゆ楽(聚楽)ヨリ 慶長十六年三月廿八日 大御所様え被進之
「御太刀御腰物御脇指方々え被遣之帳 慶長五年ヨリ同拾八年十二月迄」(慶長18年)
三之箱 一 左文字 御脇指 しゆ楽(聚楽)ヨリ 慶長十六年三月 大御所様御上洛被成候時被被進之
しゆ楽(聚楽)より進上される。聚楽とは豊臣秀次のことで、秀次は関白になると聚楽第に住したので、聚楽とも呼ばれた。

形状は、鎬造り、庵棟、大磨上で、反り浅く、小切先猪首ごころとなる。鍛えは、小板目つみ、鮮明な乱れ映りが見事である。刃文は、大房の重花丁子乱れ、匂い足が盛んに入り絢爛たる出来である。鋩子は、浅く乱込み僅かに返る。茎は、大磨上げ、目釘孔三、無銘。

南泉一文字には刀拵が一つ、脇指拵が二つの計三種の拵が附帯する。
刀拵は金襴包刀拵で、大小拵の大、つまり刀としての使用となり、小は左安吉と朱銘のある短刀となる。
総長89.1cm、虫尽図赤銅鐔(縦7.4cm、横6.7cm)、土筆図小刀柄・笄(小刀柄:長7.9cm、笄:21.2cm)、銀小刀 銘 寿命(身長11.5cm)
脇指拵が二つあり、梨地刻脇指拵は総長80.0cm、葵紋散秋草図赤銅鐔(縦5.9cm、横5.6cm)、桐紋三双小刀柄・笄(小刀柄:長7.9cm、笄:20.9cm)、小刀 銘 相模守政常(身長11.5cm)
魯色金霰脇指拵は、総長80.9cm、波に露図赤銅磨鐔鐔(縦7.0cm、横6.4cm)
但し、小刀柄・笄は二つの脇指拵で共通となる。

(参考文献:日本刀大百科事典より転載・引用・抜粋)

(法量)
長さ 長さ 2尺0寸3分(61.5cm)
反り 6分(2.0cm)
元幅 9分5厘(2.8m)
先幅 7分(2.3cm)
元重ね 2分(0.6cm)
先重ね 1分5厘(0.45cm)
茎長さ 5寸2分(15.5cm)

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