日本刀は、武器という機能を超えて、時代の精神や美意識、作り手の思想までも映し出す存在です。ここでは南北朝末期から室町初期にかけて鍛えられた四振を取り上げ、それぞれの魅力をひも解きます。

はじめに紹介するのは、筑州住行弘の短刀です。観應元年の年紀を持ち、長さ約23.5cm。わずかに内反りを帯びた平造で三ッ棟。小板目肌1がよく詰み、細かな地沸2が全体に広がります。刃文は小湾れ3に逆がかった足入り、匂口は冴えて小沸がむらなくつき、帽子は突き上げて深く返ります。茎は生ぶで、筋違の鑢目が残されています。

長州住顕国の刀には、大磨上げにより折返し銘4が残され、長さは約72.7cm。鎬造・庵棟で身幅が広く大鋒、反りは浅く、もとは三尺を超える太刀であったと考えられます。地鉄は大板目肌が流れごころとなり、細直刃にほつれ5、小足6が入り、沸と匂が調和する刃文が見どころです。金筋7・砂流しも活発にかかり、帽子は小丸に返り、掃きかけも見られます。応永以前の作と推定され、顕国作中でも古作に属する優れた品です。

阿州住氏重の短刀は、長さ約27.6cm、反りのない平造・三ッ棟で、身幅広く重ねは薄めです。板目肌は流れごころを帯びており、やや白け立っています。締まりのある細直刃には小沸8が細かくつき、帽子は小丸に返ってほつれごころも感じられるでしょう。茎には五字銘が大きく刻まれ、刃寄りに素剣、裏には9と護摩箸10の彫りが見られます。『光山押形』に掲載され、室町初期に至る海部派の最古作と考えられる一振りです。

最後に取り上げるのは、備前國友成による太刀。長さ約79.0cm、反り約2.3cmで、腰反と踏張りがあり、堂々たる姿を誇ります。鎬造、庵棟、小鋒で、地鉄は小板目肌に地沸がつき、地景11も交じります。刃文は小乱に足・葉がしきりに入り、小沸が深く、金筋も頻繁にかかるところも特徴です。帽子は小丸に返って掃きかけがかかり、表裏ともに二重帽子ごころ12が見られます。彫物は棒樋に加え、腰には素剣13の浮彫もあり、信仰的意味合いを備えています。

これら四振の刀剣は、いずれも時代の思想や美意識を宿した品々です。造形、地刃の表情、茎の銘に至るまで、刀工の技と心が込められています。名品と呼ばれる刀が持つ静かな力は、今も変わらず、私たちの目と心を惹きつけてやみません。

※1 小板目肌(こいためはだ):地鉄の模様(鍛え肌)の一種で、細かく詰んだ板目模様。整った美しさを持つ。

※2 地沸(じにえ):刀の地鉄の表面に現れる微細な沸粒(にえつぶ)。金属成分が粒状に輝くように見える。

※3 湾れ(のたれ)ゆるやかな波状の刃文。なだらかな曲線が特徴。

※4 折返し銘(おりかえしめい):磨上げで本来の銘が消えるのを避けるため、銘を折り返して残したもの。

※5 ほつれ:刃文の輪郭が崩れて流れるように見える状態。

※6 足:刃文の上から下へ向かって入る短い線。硬軟のバランスを取る役割がある。

※7 金筋(きんすじ):硬い金属線が刃の中に線状に入る現象。刃中の働きのひとつ。

※8 小沸(こにえ):非常に細かい沸粒(にえ)のこと。刃縁や刃中に密に付くと冴えた印象を与える。

※9 楚字:古代中国の楚(そ)に由来する文字や装飾様式。護摩箸彫の補助的装飾として見られる。

※10 護摩箸:密教儀式で用いられる金属製の棒を模した彫物。災厄除けや祈願を意味する。

※11 地景:地鉄中に見られる線状の模様。地沸とともに刀身の表情を豊かにする。

※12 二重帽子ごころ:帽子において、刃文が二重になったように見える構造。技巧を凝らした作に多い。

※13 素剣:仏教的な意匠である剣の形を彫ったもの。護符的意味を持つ。

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