安吉一派の刀工・吉貞について
吉貞は、『秘談抄』に記された系図において安吉の子とされていますが、作品の裏銘などから判断すると、安吉と同時代の刀工である可能性が指摘されています。また、後年に長門へ移ったという伝承もあるものの、その事実関係は明確ではありません。現存する作例としては短刀がいくつか知られていますが、在銘の太刀については確認されていないようです。
作風においては、安吉と同様の傾向を示しつつも、地鉄にはやや肌立ちが見られ、刃文には控えめな小乱れ1の作が多く見受けられます。沸は安吉の作よりも強く、刃縁2には冴えが感じられるでしょう。帽子の返りはやや激しさがあり、左一派2に近い傾向を示す例もあります。茎の鑢目には大筋違が用いられる点も一つの特徴です。
吉貞の作とされる脇指4の一例として、「長政 吉貞作 正平十三年九月日」の銘をもつ一口があります。長さは約37.3cm(一尺二寸三分)、反りは約0.45cm(一分五厘)、庵棟に仕立てられています。地鉄は板目肌に美しい地沸がつき、刃縁全体には細やかな沸が連なり、所々に金筋が走って活気ある表情を見せるのが特徴です。茎の棟は小丸に仕立てられ、大筋違の鑢目が施されています。
資料上の記述は限られるものの、残された作からは安吉一派に通じる確かな作刀技術がうかがえるでしょう。
1 小乱れ:細かく揺れるような波形の刃文。緩やかで繊細な印象を与える。
2 刃縁:刃と地の境界部分。焼きの状態や沸・匂の現れ方が集中し、作風の見どころとなる。
3 左一派:南北朝期に活躍した刀工「左文字」の流れを汲む刀工群。刃文や帽子の形に特徴がある。
4 脇指:日本刀の一種で、主に太刀や打刀と対で腰に差す短い刀。長さは30〜60cm程度で、近接戦や予備武器として用いられた。
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