鉋切長光(かんなぎりながみつ)

  • 指定:重要美術品
  • 小太刀 銘 長光 (名物:鉋切長光)
  • 徳川ミュージアム蔵
  • 長さ 1尺9寸5分(59.1cm)
  • 反り 7分3厘(2.2cm)

 

鉋切長光は備前長光作の太刀で「享保名物帳」に所載する。もとの持主:又五郎とは近江国堅田の住した人とも、また堅田であった姓ともいう。又五郎が江州伊吹山の麓を、顔を見知っている大工と共に連れ立って歩いていたときに、大工の顔がたちまち恐ろしい形相へと変化して、又五郎に襲いかかろうとした。又五郎は腰の長光をぬいて切りつけた。大工が持っていた鉋(かんな)で受けたところ、それを真二つに切りさげた。その瞬間、大工の姿は消え失せた。それで「鉋切り」の異名がついた。鉋(かんな)とは、材木の表面を削ってなめらかにする大工道具で、古く用いられたものは槍鉋といい柄の先に刃をつけただけのものであった。また、鉋身を台木に固定して使用する現在のものを台鉋という。台鉋が日本に入ってくるのは16世紀後半ともいわれており、又五郎が鉋切長光で切った大工が持っていた鉋とは槍鉋であったのであろうか。それを領主の佐々木家で召し上げたみえ、永正(1504)のころ、佐々木近江守氏綱が所持していた。その後、甥にあたる管領:佐々木(六角)義賢に伝わった。
ある日、義賢が重病にかかった。その原因は又五郎に斬られてしまった大工の祟りによるものだから、いずれか誰かが義賢の身代わりとなって死ぬことによって、鉋切長光は寺に奉納するのが良いだろう、という者がいた。それで一族の者にいた鯖江美濃守定実が身代わりとなって、生きながらに愛知郡愛東村の百済寺の内にある、竜花院において埋葬されたので、鉋切長光も同じく竜花院に奉納されることになった。永禄11年(1568)、織田信長は義賢を降伏せしめたのち、鉋切長光を召し上げたのであろう。天正7年(1579)6月24日、丹羽長秀から周光の茶碗を召し上げるかわりに、鉋切長光を与えている。本阿弥光瑳が描いた鉋切長光の刀絵図に、「会津侍従殿所持」と注記してある。蒲生氏郷が会津侍従と呼ばれるようになったのは、天正18年(1590)からである。すると、天正の末期には鉋切長光は、氏郷の有に帰していたことになる。
その後、寛永元年(1624)4月14日、将軍家光が氏郷の子:忠郷の邸に臨んだとき、忠郷が豊後の行平の太刀や相州貞宗の脇差とともに献上した。寛永3年(1626)11月、前の将軍であった秀忠が前田利常の娘を養女に迎え、作州津山城主:森忠政の長男:忠広に入輿せしめたとき、秀忠は忠広への婿引出として、鉋切長光の太刀と当麻国行の脇差を与えた。忠広は惜しむらくも早世してしまったたので、弟の内記:長継が津山藩森家を継いだ。長継はこれを延宝2年(1674)5月26日、致仕の挨拶として将軍家に献上した。
延宝6年(1678)9月、本阿弥家で鑑定をさせると代金子にして二十五枚の折紙をつけた。延宝8年(1680)11月29日、将軍綱吉の長子:(徳松)へ与えたが、徳松が夭折したあとは、将軍の御物として明治に至った。大正12年の関東大震災により、蔵刀の焼失した水戸徳川家の乞いにより、同家に贈られた。
昭和23年4月13日、重要美術品認定。認定時の所有者は東京:徳川圀順氏(水戸徳川家13代当主)
長光の小太刀の名物は鉋切長光の他には蜂屋長光(重文)が広く知られている。

名物帳には「御物 鉋切(長光) 銘有 長さ壱尺九寸五分 代金弐拾五枚
昔蒲生氏郷卿所持、佐々木殿へ遣(す)。秀吉公へ上る。相国さま(へ)被進、天正之頃也。其後 秀忠公へ被進。何れの拝領か森内記殿家にあり延宝の初上る。鉋切りと申(す)子細は大昔江州に堅田又五郎と云者有。此刀を所持す。有時化生日比出入候大工と成来(り)、伊吹山へ同道にて行(く)、山中にて毛色替(る)に付(き)切掛る。彼者かんなにて請る。かんなともに切留ると云々。」

徳川将軍家の「御腰物台帳」の御名物道具には「鉋切長光 御刀、備前国。是は蒲生飛騨守氏郷卿所持。佐々木に遣し。秀吉江送る。後、台徳院様江上る。其後、森家江下され、延宝の頃、又上る。延宝八申年十一月廿九日、西丸御移徒御祝儀の時、於御本丸、常憲院様より浄徳院様江被進。鉋切りの異名を尋るに、往古江州に野田又五郎と云者あり。伊吹山麓にて日頃出入番匠の形となりて、鉋を腰にはさみ、慕ひ来る男、あやしき化生と思ひ、この長光を以て切すてる時、其形消亡、鉋ばかり二つに切故に、依て異名とす。」

形状は、鎬造、庵棟、寸は少しつまっているが反りはやや高く、身幅は広く、腰には踏張りがあり、重ね厚く、切先は猪首。地鉄は、流れごころの板目つみ、下半は棒映り通り、上半は丁子映り連なる。刃文は匂い深く、のたれ調で、形の揃った丁子乱れ刃、小足入る。帽子は、小乱れこみ、先少し返る。彫物は、表は棒樋に添樋、裏は二筋樋をほり、どちらも区際で丸にとめる。茎は生ぶ、孔の上に長光と二字銘がある。先は一文字に切る。

(参考文献:日本刀大百科事典より転載・引用・抜粋)

(法量)
長さ 1尺9寸5分(59.1cm)
反り 7分3厘(2.2cm)
元幅 1寸0分7厘(3.25cm)

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