北谷菜切(ちゃたんなきり)

  • 指定:国宝
  • 青貝微塵塗腰刀拵
  • 刀身 無銘 (号:北谷菜切)
  • 那覇市歴史博物館蔵
  • 長さ 7寸6分(23.0cm)

北谷菜切は、千代金丸・治金丸とともに尚家に伝来した3振の刀剣の一つで、拵は琉球製と考えられ、青貝螺鈿の鞘に、柄は金打出鮫、金具はすべて金無垢とした豪華なものとする。金を着せた小柄・笄を附属する。裏には「天」の篆書のみのほか、分銅形・鼓胴形の記号が彫られる。刀身は使い込んだためか、刺刀風に削がれた形を呈し、焼刃は少し残るのみである。
拵は、柄は金打出鮫。鞘は青貝螺鈿。兜金、縁金物、口金物、栗形、返角、鐺は金魚子地唐花唐草文毛彫り。小柄は赤銅魚子地雲に獏の高彫り、金色絵。裏に「天」篆字及び「分銅形」ほかを刻む。笄は金着魚子地に桃枝文を据える。裏に「天」篆字ほかを刻む。総長:46.5cm。時代:16~17世紀。
刀身は、平造り、三ツ棟、反りわずかについて現状は刺刀風に鋭く尖る短刀である。生ぶ茎、茎先は棟の方へ片削ぎ、目釘孔二。鍛は板目肌総体に流れる。刃文は細直刃、帽子欠。彫物は裏に細い腰樋。総長:23.0cm。時代:15世紀。

青貝微塵塗腰刀拵
古く北谷間切の世の主の家に伝わったといわれ、「北谷菜切」と称される腰刀の拵である。合口式で、鞘はひじょうに細かな方形の切貝を黒漆地に置いて、あたかも貝蒔絵のように見せる独特の螺鈿を施している。「歴代宝案」に多数掲載される螺鈿の刀剣拵もこのようなものと思われ、本品を琉球製とする点で先学の見解も一致している。
柄を鮫皮様に打ち出した金板を貼り、柄頭・縁・鯉口・返角・栗形・鐺をいずれも金無垢で作り、丁寧で強い打ち込みの蹴彫りで蓮華唐草文を表して、間地に細かに並んだ魚々子を打つ。唐草風の蓮華や、火焰のゆらめきのごとく描かれる葉などは、中国・明代の工芸品に通有の図様表現である。このような中国風図様を、日本の後藤家のような彫物師系ではなく、躰阿弥に代表される錺師系の彫金技法で描こうとするところに、琉球独特の作風を見ることができる。またそれは、銀製酒器をはじめとした諸作品とも共通し、首里王府内の金工工房の作風とも見なしうるのである。
小柄は赤銅製で、獏と足の長い飛雲文を高彫りし金色絵を施すが、地に魚々子を打たない点が異例である。笄は銅胎の全面に金を着せ、枠内を魚々子地に桃枝文を高彫りするが、こちらも細部の造作がやや粗く、魚々子打ちも粗密にばらつきがある。これらも首里王府工房製と見られている。
鎺の表裏、小柄と笄の裏にはいくつかの記号が刻まれており、これらの記号は王府の蔵印といわれている。千代金丸の赤銅製縁のほか、王府神女組織の頂点にいた聞得大君の所用と伝える金銅雲竜文簪の頭や笄にも見られる。この簪の記号は制作後に刻まれている。また、ひとつの作品に複数種類の記号が見られることから、王府工房内で個々の部品を制作した担当者(もしくはグループ)の記号である可能性も指摘されている。なおこの種の記号をもつ漆工品の多くが、古琉球時代、16世紀まで遡るものと考えられているが、北谷菜切の拵形式もこの年代観と齟齬がなく、17世紀前葉あたりが下限といわれている。

琉球王国の王家であった尚家継承の文化遺産資料の一部について非破壊・非接触の測定が可能なポータブル蛍光X線分析装置を用いて材質調査が2000年12月に行われた。
青貝微塵塗腰刀拵(号 北谷菜切)
刀身で1箇所、拵で7箇所、計8箇所で測定を行った。刀身の中央付近から検出された元素は鉄(Fe)だけであった。鉄の蛍光X線強度は千代金丸の刀身あるいは治金丸の刀身から得られた結果に近く、炭素を除いて考えると、鉄含有率99%以上の材料であると考えられる。
鞘の螺鈿部分の測定では、貝殻の主成分元素であるカルシウム(Ca)が多量に検出されるとともに、微量の鉄(Fe)が検出された。鉄は下地の漆に由来するものであると考えらえる。柄部分の測定では、金(Au)が大きく検出されるとともに、少量の銀(Ag)および微量の銅(Cu)が検出された。これを金ー銀合金であると仮定すると、金81%、銀19%相当の含有率である。また、鞘の栗形についてもこれとほぼ同様の結果があり、同一の材料が用いられていることが推測される。一方、笄および笄刻印部からは金(Au)、銀(AG)、銅(Cu)の3元素が比較的多く検出された。この結果だけでは材料の構造を断定することはできないが、千代金丸の鐔で考察した煮色着色した金属あるいは合金が用いられている可能性がある。ただし、笄および笄刻印部から得られた結果は、千代金丸の鍔の測定結果に比べて金および銀の強度が大きく、逆に銅の強度が小さくなっている。このことから、使われている材料および構造が異なっていることが考えられる。表面に金あるいは金ー銀合金の金貼りがなされ、その下に煮色着色した銅合金(銅ー金あるいは銅ー銀)が使われている構造を考えることができる。金および銀が金貼り材料および下層の銅合金両方に含まれている可能性があり、今回の測定結果だけではそれぞれの科学組成を求めることはできなかった。
小柄については、表面の黒色部分からは大量の銅(Cu)と微量の金(Au)が検出された。千代金丸の鍔から得られた結果に近い測定結果であり、銅ー金合金を煮色着色した材料が使われている可能性がある。小柄の金色部分の測定では金95%、銀5%相当の合金組成が得られた。煮色着色した銅ー金合金の上に金貼り処理が施されている構造が考えられる。

(参考文献:日本刀大百科事典より転載・引用・抜粋)

日本刀や刀剣の買取なら専門店つるぎの屋のTOPへ戻る