平成30年(2018)9月29日より11月25日までの約2ヶ月間、京都国立博物館において特別展「京(みやこ)のかたな 匠のわざと雅のこころ」が開催されたとこはまだ記憶に新しく、山城鍛冶や京都で活躍した刀匠の代表作など200点が展示されました。
国立博物館における刀剣の大規模な特別展は平成9年(1997)に東京国立博物館で開催された「日本のかたな 鉄のわざと武のこころ」以来の約20年ぶりとなり、刀剣の国宝指定品122振のうちおよそ6分の1にあたる19振(うち山城物17振)を含む現存する山城物の名品のほとんどが京都に舞い戻ったと言っても過言ではなく、また人気ゲーム「刀剣乱舞 -ONLINE-」とのコラボレーションや、三日月宗近、石切丸、鳴狐、後藤藤四郎、秋田藤四郎、五虎退、毛利藤四郎、博多藤四郎、前田藤四郎、鯰尾藤四郎、骨喰藤四郎、信濃藤四郎、次郎太刀、同田貫正国、明石国行、謙信景光、へし切長谷部、千子村正、山姥切長義、歌仙兼定、陸奥守吉行、宗三左文字、膝丸、髭切ら刀剣男士のモチーフとなった刀剣20振以上が集結したことでも大きな話題をよびました。入場者数も253,012人と数多くの方が来場され、京博の歴代入場者数でも歴代7位を記録してこれは国宝展に比肩する規模で、改めて日本刀の美術性のみならず、その背景にある歴史的・文化的な魅力の高さを国内外に示す記録にも記憶にも残る素晴らしい展示会となりました。
当店つるぎの屋よりも数振の刀剣を出陳させていただいておりましたが、そのうちの1振である幕末の京都で活躍した南海太郎朝尊の作品「短刀 銘 山城国幡枝寓朝尊」(作品番号188)をこれも何かのご縁かと想い「京のかたな」展が開催された後に京博に寄贈させていただく運びとなりました。京博にも快く寄贈を受け入れてくださり、令和2年(2020)1月17日に受領書と感謝状をお送りいただきました。京博には坂本龍馬の佩刀と伝えられる「陸奥守吉行」の刀を所蔵されておりますが、寄贈の南海太郎朝尊の短刀が同館に末永く収蔵されることは大きな喜びであります。
今回のご縁をいただいた朝尊の短刀の銘文にもある「幡枝」の地を訪れる機会を得ましたので少しご紹介したいと思います。
洛北の地にある山城国愛宕郡幡枝は、現在の京都市左京区岩倉幡枝町で、朝尊はその晩年に幡枝の地に移り住み鍛刀を行い、慶応元年(1865)4月7日、61歳にて同地で没しました。短刀の銘文にある「幡枝寓」とは「幡枝八幡宮」のことで、訪れてみると小高い山の上に同社は鎮座しておりました。昔は「石清水」が湧き出ていたそうで、朝尊の他に堀川国広も同地で作刀を行っておりますが、現在は枯れてしまったそうでした。

太刀 銘 幡枝八幡宮 藤原国廣造 慶長四年八月彼岸 重要美術品 幡枝八幡宮蔵(作品番号172)
堀川国広が京都:堀川に定住した後でもっとも早い慶長4年(1599)紀を有し、国広が幡枝八幡宮の神前で鍛えて奉納したもので、後に後水尾天皇がこの太刀に金梨地鳩紋蒔絵糸巻太刀拵を製作させ寄進し、現在も同社の蔵となっています。

筆者も幡枝八幡宮に参拝し「京のかたな」展が地震などによる大きな事故も無く大成功のうちに幕を閉じたことを感謝しつつ、再び20年後には国立博物館において素晴らしい刀剣の展示会が開催されることを楽しみに同地をあとにしました。

(以下、「京のかたな」展図録より抜粋)

一八八 短刀
銘 山城国幡枝寓朝尊
一口
鉄 鍛造 平造 庵棟
江戸時代 十九世紀
全長:28.8cm、刃長:21.0cm、茎長:7.8cm、切先長:なし、刃身反:なし、茎反:なし、元幅:2.26cm、先幅:1.39cm、元重:0.60cm、先重:0.42cm、重量:123.5g

幕末の京都で活動した刀工・南海太郎朝尊の手による短刀。その号が示すとおり朝尊は土佐国高岡の出身で、後に上京して三品派の門弟として伊賀守金道に学び、また江戸では水心子正秀に教えを受けたとされる。朝尊は実際の作品製作だけではなく、研究や教育にも極めて熱心であり、千種有功の相槌をつとめたり「新刀銘集録」「刀剣五行論」といった著作活動を行っている。これらは自身の考えや技術を地金学・歴史学そして思想学的に沿って解説したものであり、この時代の刀工が自身の立ち位置をどのように認識していたのかをはかる好資料である。
本品は朝尊が現在の京都市左京区岩倉幡枝町にある幡枝八幡宮周辺に居住していた頃の作品。年紀は無いが、同じく「山城国幡枝寓朝尊」と銘を切る短刀に「文久元年(1861)二月日」と添えられた作例があるため、この短刀もそれに前後する時期に製作されたものと考えられる。朝尊はこの幡枝の地で没したが、生国であるとさにも作刀を行う血縁者が残っており、東京国立博物館蔵の「薙刀 銘土佐住森岡兵庫朝国作之/文久三年癸亥六月選之」などが知られている。

京都国立博物館蔵 冥賀亮典寄贈

(刀剣界新聞-第52号 冥賀亮典)

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